ノーサイドだより

モンゴル訪問おみやげ話(2002年7月19日)

モンゴル最大のお祭りナーダム

モンゴルの人々がとても楽しみにしている最大の祭りはナーダムだ。
今年も7月10、11日に開催された。
ナーダムは男のお祭りであり、競馬、相撲そして弓の全国競技大会が開催される。様々な世代の男達が、遊牧民としての誇りと名誉をかけて彼らの技を競うのである。
競馬は2日間にわたってあり、1日3レース。2歳馬、3歳馬、4歳馬、6歳馬以上そして種馬だけと各クラスに分けて速さを競うのだ。
往復60kmのコースをなんと1000頭近い数の馬が、音を立てて疾走する光景はさすがに大迫力だ。
モンゴルで入手した絵葉書でその様子を紹介する。
モンゴル最大のお祭りナーダム
モンゴル最大のお祭りナーダム

モンゴル人の使う鐙(あぶみ)。

7月の初め、乗馬クラブの仲間10数名で蓼科高原の中で約60kmの遠乗りをやった。参加者のほとんどは乗馬のベテランだから、乗馬技術は問題ないのだが、さすがにこの位の距離を乗り続けると、腰やお尻が痛くなり、疲労でぐったりしてしまう。
そこで思い出されるのが、モンゴル人の馬の乗り方だ。彼らは基本的には立ち乗りで、鐙の上に立ち、膝をバネの様に使ってリズミカルに馬に乗る。(勿論、時々は鞍に座るが・・・。)この乗り方だと長距離でも、疲労感は少ないし、腰やお尻への負担も少ない。この立ち乗り用に彼らの使っている鐙も工夫されていて、私達が普段見慣れているものとはちょっと形が違う。それは足をかける部分が丸型で、広く、平で、その上にしっかり立てるようになっているのだ。また鞍の形状も、立った姿勢を保ち易くするために、前部に凸部がある。そこに身体を押し付けて支えるのだ。こうした安定した騎乗方法で馬を操り、大草原を疾走するのである。
遠い昔、モンゴル民族はこうした長距離を苦にしない方法で、馬を自在にあやつり、遠征し、あの広大な領土を誇ったモンゴル帝国を実現したのだろう。
私達が普段使っている鐙
私達が普段使っている鐙。
モンゴル人に使っている鞍と鐙。鐙の足をかける部分と鞍の前後の盛り上がりに注目
モンゴル人に使っている鞍と鐙。
鐙の足をかける部分と鞍の前後の盛り上がりに注目。
立ち乗りをする。
立ち乗りをする。
鞍の前部の凸部に身体を押さえつける。
鞍の前部の凸部に身体を押さえつける。

モンゴル人の馬の調教の仕方。

馬の調教はとても骨が折れる仕事だ。(文字通り、調教中に落馬したり、蹴られたりして骨を折ることも多い。)野生の馬を人間の都合が良いように変えようというのだから、簡単でないのは当たり前だ。だから当然、時間はかかるし、手間もかかる。
日本では、だいたい2~3ヶ月かけて、ゆっくり、少しづつメニューをこなしてゆく。
まず手始めとして、とにかく、人間に慣れてもらうために、馬に寄り添い、その身体に触れることを繰り返す。その後で、馬具をつけ、違和感にも慣れてもらう。こうしたメニューにたっぷり時間をかけた後で、初めて騎乗するのだ。
ところがモンゴル人はこんな悠長なことはしない。なにしろ、馬は生活の糧だし、膨大な数の馬を相手にするのだから、ドンドン効率よく調教していかねば生活はなりたたない。
まず、いきなり馬の耳をぎゅっと絞る。馬は当然驚く、暴れる。そこでひるまず、いきなり馬にまたがる。馬はますます驚き、激しく跳ねたり、走り回ったり、とにかく、自分の身上に降りかかった災難から逃れようと動き回る。
怒りと恐怖感を感じながら振り落とそうとする馬と、振り落とされまいとする騎乗者との、壮絶な戦いが続き、やがて、馬は騎乗者に屈服する。これを、なんと4~5分でやるというのだから、驚きだ。 この繰り返しを経て次第に馬は人間に慣れ、乗られることの何たるかを知ってゆくのだ。

馬の傷や病気のモンゴル流の治療方法。

ある馬が狼に襲われ、首と後足の太ももの付け根に深い傷を負ってしまった。深さも2cmになろうかという重症だった。日本人の我々から見ればとても簡単に治癒しそうもなく、元の元気な姿に戻ることは期待できないばかりか、下手をすると死んでしまうんじゃないかと思えるものであった。
そんな傷をモンゴル人は次の方法で治療したのである。
その深い傷にいきなり馬の新鮮な糞を塗りつけたのである。モンゴルは非常に乾燥した地域だから、簡単には傷が化膿することはないそうだ。さらに、馬が日常食べているモンゴルの草は、一種の薬草、ハーブであり、その排出される糞には薬効成分が含まれており,それが傷に効くというのだから驚きである。
同様に、馬の熱さましの方法というのがある。ここでは牛の糞が役に立つ。
乾燥した牛の糞はモンゴル人の生活の中では燃料として使われる。それを燃やして鍋の外側などに付着した煤が薬になるのだ。牛も馬と同様にモンゴルの薬効のある草を食べ糞を出す。それを燃やしてできる煤である。それを水に溶かし馬に与えると、不思議と熱が冷めるんだそうだ。
文明の中で、便利に安全に、快適に暮らしてきた私たちに、とても考えられないことであった。

モンゴル馬には蹄鉄は不要

馬のひづめには、当然、蹄鉄をつけるもの。それが、馬を守る大事な手段。というのは私たちには半ば常識だが、モンゴルではどうもそうではないらしい。かえって、蹄鉄をつけるために、馬の調子をくずしてしまうという見方もあるようだ。
確かに、馬にピッタリ合った蹄鉄が取り付けられるなら、ひづめの保護には役立つのだろうが、これは大変高度な技術を要するもので、なかなかうまい具合にはいかず、かえって馬にダメージやストレスを与える場合が多いようだ。釘が深すぎて馬の神経を傷つけたり、装着状態が悪くて、それをカバーするために馬が無理な姿勢で歩行し、関節や筋を傷めるなどのトラブルを生じてしまうのである。
モンゴルでは、まさに自然のままに放置してあるようだ。もっとも、多数の馬に、いちいち蹄鉄なんかつけてられないという事情もあるのだろうが、あるがままの自然の力にまかせ、それを上手に生かし、付き合っていくのがモンゴル流なのだ。
ノーサイドもそれに習った。そうすることで、以前には必ずあった馬の故障がほとんどなくなったのである。人間が人間の理屈であまりかまいすぎることが、どれほど馬にとって良くないことなのかを改めて知らされたのである。
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